【ネタバレあり】貴志祐介の才気煌めくSF作品『夜の記憶』。深読みのコツ。

まだ「岸祐介」名義の時に発表された『夜の記憶』。

創刊700号記念アンソロジー集『SFマガジン700【国内偏】』の中の一作品でした。

このアンソロジー集、小説家だけでなく漫画家も作品を載せていて、
すごいラインナップになっています。

平井和正、筒井康隆、円城塔といった作家陣に加え、手塚治虫、松本零士、
吾妻ひでおというレジェンドと言える漫画家の作品も載っているのです!

総勢13人の作品はどれもじっくり読みたい、味わいのあるものばかり。

その中で貴志祐介の『夜の記憶』は、
本格的SF小説として際立った作品となっています。

描かれている世界は遥か未来なのか…。

記憶とは、その後を生きるかすがいになるものなのか…。
ネタバレとなってしまうかもですが、作品世界を少し掘り下げてみたいと思います。

この作品、一回読んで内容をしっかり把握するのはちょっと難しいかも。

ネタバレなら読みたくない方でも、
いい導入記事となるかと思います。

どうぞお付き合い下さい!

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●aとb、二つのパートで描く『夜の記憶』

『夜の記憶』は、aとb二つのパートが交互に出てくる構成となっています。

aでは、どこか分からない遠い星に住むと思われる謎の生物が主人公。

bでは三島暁と織女(オリメ)夫婦が主人公。

どちらのパートも、重く物悲しいトーンをはらみ、
読み進むうちその原因が分かってきます。

貴志祐介は架空の生き物、世界をまるで目の前にあるように描写してくれる作家

どれほど細かいところまでイメージが出来ているのか、
貴志祐介の頭の中を覗いてみたくなります。

aとbの登場人物には関係性がないのかと思ったら、
ネタバレになりますが実は同一生命体らしいのです。

生命体、と言ったのはaの生物の容姿、体の機能が“生物”と簡単に言えない、
想像を超える描写をされているからなんです。

それでは、aとbそれぞれを少し詳しく見てみましょう。

●『夜の記憶』のaパート

aに出てくる生物は、体の後部にたくさんの泳行肢が、
前部にはイソギンチャクに似た触角があり、
さらに発振板というモノを有し閃光を発することが出来るのです。

その生物がいるのは暗黒の深海

光で照らすことで、敵がいないか、目的地はどの方向かなど周囲を観察、
判断する生物。見た目は下等生物のようでも、知能は高く、
そして遠い記憶を持っているのです。

続いて出てくるbパートが、aを読んで出てきた疑問を少しずつ補い、
ヒントをくれます。

ネタバレになりますが、この生物にはある大事な使命があるのですね。

こんな姿の生物に、そんな使命を課したのは誰?と思いますよね?

それはbパートからだんだん推測されてくるのです。
見えてくるのは壮大なSFの世界ですから、驚きますよ!

●『夜の記憶』のbパート

それではbパートを見てみましょう。

登場する三島暁とオリメは、最後の夫婦旅行をしています。

それは地球と思われる惑星との別れでもあるらしいのです。

彼らがいるのは青い海があり、太陽が降り注ぐ地。

楽園とも思える景色をもう見ることが出来ないなんて、
状況の切なさが胸に迫ります。

ネタバレ気味になりますが、タイムリミットが来たら、
なんと彼らの記憶も人格も小さなチップに納められてしまうらしい。

どうしてそんなことになったのか、誰がそんなことをするのか、
読み進むうち人類をしのぐ大きな存在が見えてきます。

けれど三島夫婦は決して消えるわけではない、
形を変えてうっすらとした記憶と共に生き続けるらしい。

それがaパートの生物とどう結びつくのか分かった時、
ゾッとするほどの衝撃がありました。

登場人物が人であるだけに、
彼らが感じている恐怖がリアルに迫ってくるbパートなのです。

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●まとめ

貴志祐介の40Pほどの短編『夜の記憶』

深い暗い海底、そこに住む架空の生物たち。

水の感触、生物たちの手触りも生々しく感じさせてくれる描写力。

自分が消える恐怖と悲しさをリアルに伝える内面描写。

『夜の記憶』は短い小説ながら、
貴志祐介の作家としての力を存分に味わえる深い作品となっています。

地球という星を私たちはどうしたら守ることができるのか、
そんな問題提起も感じる『夜の記憶』。

読んだあなたはどんな感想を持つでしょうか。

読後、心に響く声にぜひ耳を傾けてみて下さい!
ここまでお付き合い、ありがとうございました。

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