『ルーズヴェルト・ゲーム』の作者、池井戸 潤が教える大逆転人生とは?
『ルーズヴェルト・ゲーム』は、2012年に刊行され、ドラマ化もされた池井戸 潤の作品です。
野球好きで知られるルーズヴェルト大統領が言ったという、
「一番面白いのは8対7の試合」という言葉。
それが『ルーズヴェルト・ゲーム』と称されることになったのですが、
池井戸 潤がタイトルにつけたその意味は?
今年、何かと話題になった野球。本書の試合シーンに手に汗握り、
この春の興奮をもう一度味わうのも一興ですが、
それだけでないのが、池井戸 潤作品の深いところ。
じっくり味わうポイントを、お伝えしたいと思います。
●「野球部」と「会社」。存続のための二つの闘い
『ルーズヴェルト・ゲーム』では、「野球部」の章、
「会社」の章とほぼ交互に進んでいく構成となっています。
リーマンショック後と思われる日本。高い技術力がありながら、顧客の減産や、
受注減で苦境に立たされる青島製作所が舞台。
何とか会社を立て直そうとする細川社長と、高額の維持費が掛かるため、
廃部の危機に立つ社会人野球部にこれでもかと苦難が降りかかるんですね。
いきなり届いた、監督の辞表から始まる野球部の章。それも主力選手を連れ、
ライバル会社の野球部の監督となるのですから、えげつない!
不況を受け、製品の値下げを要求される青島製作所。
それも競合会社がより安い値段で攻勢をかけてきたから。
その会社こそ、監督が流れたライバル会社ときてがぜん面白くなってきます。
●濃い悪役の存在感が強すぎる!
ライバル会社ことミツワ電機は、青島製作所をギリギリまで翻弄することになります。
その先頭に立つのが坂東昌彦社長。
長く社長として君臨し、さらに上へ、と野心のかたまりのような坂東。
『ルーズヴェルト・ゲーム』のまさにキーマンです。
青島製作所を取り込もうとあの手、この手を尽くす執拗さと腹黒さは、
ある意味池井戸 潤作品に欠かせない悪役です。
それは青島製作所野球部のスキャンダル暴露にもおよび、何でもありのやり口。
最後の最後まで、ハラハラさせられる展開に、青島製作所頑張れ!と
エキサイトしてしまうでしょう。
池井戸 潤作品をドラマで見てきた人なら、
坂東の顔に、あの俳優が思い浮かんでしまうかもしれませんね。
●大逆転の爽快感に読後感は最高!
青島製作所はどうなるのか?悩み抜く細川社長ですが、青島会長と話すことで
利益を上げるだけじゃない、会社経営の意味を知ることになります。
「モノの数字なら減らしてもいいが、ヒトの数字を減らすなら経営者としての
“イズム”がいる」という会長の言葉。
「経営者としての“イズム”とは何か」。ミツワ電機との攻防を経て、
だんだんその意味が分かって来る細川社長。それとともに、
ただの社員だった部下たちの声が、顔が見えるようになってくる。
その過程が胸を打つんですね。
野球部では、新しい監督の元、維持しようと頑張る担当社員や、
マネージャーたちの必死の思い。
そしてプロではない、社会人野球だからこその不安定さを抱えつつ、
戦う部員たちの絆の深まりに胸が熱くなるでしょう。
なかなか本心が見えず、社長に良い感情を持っていないのかと思われた専務が、
実は誰よりも会社の風土を愛し、社長の技量も認めていたこと。
自分の器を承知し、会社に尽くそうとする姿に目頭が熱くなります。
最後まで、攻勢の手を緩めないミツワ電機との戦いの行方は?
そして野球部はどうなるの?と後半はページをめくる手が
どんどん早くなってしまうはず。
物語の結末まで読んだら、心にじわじわと戦いきった爽快感が
満ちてくること間違いありません。
●まとめ
『ルーズヴェルト・ゲーム』は試合風景もリアルで、
スポーツシーンもこんなに熱く書けるのかと改めて池井戸 潤の力量に感心させられました。
シンプルな文体で、人物描写はもちろん、社会情勢から会社の経理まで分かりやすく
描写する池井戸 潤。彼の作品が読まれ、またドラマ化されるのもよく分かります。
崖っぷちと思えた時も、簡単に諦めるな、逆転の糸口を見つけようと目を凝らせ。
そんなエールがきっと届く『ルーズヴェルト・ゲーム』。
野球が好きな人も、そうでない人も、
読後感はきっと温かいはず。お勧めですよ!