ルージュ.ノワール「石田 衣良」 高齢者からの目線

高齢者から見た作家石田 衣良 人物と作品

石田 衣良という名前は、聞いたことはあるが作品を読んだ事はありませんでした。

作風の少し変わった新進の作家」と受け取っていたように思います。

私は間もなく72歳になりますが、
子供の頃から所謂「本の虫」でした。

しかし今振り返ってみればその本の範囲は随分偏ったものでした。

当時、四国の山間部で読める本は限られており、
地区の児童文庫、学校の図書室にあった本が大半であり、
それは勿論子供向けのものでした。

主なものは伝記、外国も含め有名な子供向けの小説、
ノンフイクション、科学モノ等でした。

高校生になると受験勉強もあり、
詩集(リルケ、ホイットマン、島崎藤村、中原中也)のように
短時間で読めるものが中心でした。

大学ではヘミングウエイ他、社会人になると開高健、
ノンフイクション作品(柳田邦男、立花隆、山根一真)等がメインでした。

今回、石田 衣良の作品「ルージュ.ノワール」を読んで気づいたことです。

まず私はこれ迄随分本を読んだが、それは狭い範囲のものであったこと、また、
自分より年下の作家の作品は読んでいなかったということです。

古希ともなると約半世紀の社会人経験があるので、この作品に登場する暴力団やその組長、
一匹オオカミのヤクザ等を知る機会はありました。

契約上の苦情で呼び出され出かけたらどこか怖そうな感じがして、
上司に報告し調べて貰ったら、現役の組員で塀の中の経験があるとか、
その他口に出しにくいようなこともありました。

今は表面上警察に抑え込まれていますが、
戦後一時期は暴力団が必要悪として存在していたのは間違いのないことでしょう。

何れにせよ、私にとっては異分野の作品、初体験の作品であり楽しみです。

受賞状況を見ると随分幅広く活躍していることが分かります。

受賞実績も、日本ホラー小説大賞、オール読物推理小説新人賞、直木賞、
島清恋愛文学賞、中央公論文芸賞等
と幅広く受賞しています。

人物の内面描写の繊細さが魅力の小説家という見方が多いようで
その他、男性作家ながら女性的な表現が巧みであるという評価があります。

ジャンルは問わず、社会問題に焦点を当てた人間観察眼の鋭い作品が多いようだと感じます。

1960年生まれですから日本が高度成長期の時に生まれ育ち、
子供の頃は安保闘争や大学紛争で、何かと世間が騒がしかった時代です。

大学卒業後広告会社勤務を経て、フリーのコピーライターとして活躍し97年に
オール読物推理小説新人賞を受賞し作家デビューしています。

時代は違いますが、日本のコピーライターの元祖とも言われる開高健さんとダブってきます。

二人とも明日は今日より豊かになる時代に生きてきたと言えるでしょうが、
共に社会の矛盾に鋭い目を向け、人間を観察して作品を仕上げていると感じます。

またどうも非常に多作のようであり、ネットでも「石田 衣良作品50選
石田 衣良作品20選」他の見出しが並んでいます。

「観察眼が鋭く馬力がある多作の若手作家」という気がします。
石田作品はまだこの作品、ルージュ.ノワール1作のみですが、興味が湧いてきます。

スポンサードリンク




ルージュ.ノワールのあらすじ

この作品、ルージュ.ノワールの舞台は大都会東京豊島区池袋、
大小の暴力団やフリーランスのヤクザ他怪しげな有象無象の輩が住む街です。

食い詰めたフリーランスのヤクザ村瀬が、待遇に不満を持つカジノの店長から売上代金の
強奪という狂言強盗話を持ち掛けられます。

成功報酬1千万円で集められたメンバーは、話を持ち掛けたカジノの店長平山の他に
銃撃役の鈴木、スキンヘッドの坂田、そして主人公の小峰です。小峰は売れない
映像ディレクターですが、村瀬とは仕事の関係で知りあいバカラ賭博にはまり
少なからずの借金があります。

狂言強盗は成功しカジノの売上代金1億4千万円が手に入りました。

銃撃役のスズキが売上金を運んでいる店長平山の肩辺りを撃つという念の入れようです。
ところが金を分ける段階になりとんでもない事が起こります。

銃撃役の鈴木も暴力団金融に借金があり督促の際のやり取りで狂言強盗が伝わり、
金は鈴木から岩田組へと渡ります。

小峰他はカジノを経営している羽沢組に捕らえられ、
財務担当の氷高に5千万円の借用証へのサインを強要されます。

中途半端な生き方をしてきた小峰ですが、一生奴隷状態に置かれることになり
能力を全開します。

氷高に交渉を持ち掛け、資金を取り戻すことを条件に放免、
かつ1千万円の成功報酬の約束を取り付けます。

ここからが小峰の腕の見せ所ですが、事は簡単ではありません。

それでも見張りの通称サルや自身の愛人香月、店長平山の愛人等の協力もあり、
岩田組にたどり着きます。

しかしサルによればここで終わり、売上金を奪った鈴木はビルの屋上から転落死しており、
証拠もなしに事を進めるわけにはいかないということです。

諦めきれない小峰は正攻法、いわば合法的に金を取り返し、かつ強奪犯が岩田組であることの
証明をしようと決意します。

方法は博打で取り返すこと、勿論それはプロ中のプロで無ければ務まらず、
夢物語ですが今は引退している伝説のギャンブラーを突き止めます。

理由を聞いた伝説のギャンブラーは興味を示して、腰をあげてくれました。

サルも再び協力してくれるようになり、
いよいよ岩田組の配下のカジノでの勝負が始まります。

伝説のギャンブラーは順調に勝ち進み周りの観客の目も巻き込んでカジノ側との
一騎打ちの構図になります。

伝説のギャンブラーもブランクによる体力不足からか、徐々に後退を始めます。

時間の余裕もなく、このままではと追い詰められた小峰は伝説のギャンブラーと交代し、
カジノ側に一発勝負を申し込みます。

カジノ側も承諾せざるを得ず受けて立ち、最後のルーレット勝負になります。

球は投げられ、さて勝負の行方は? 勿論小峰の勝利になり、
後はどうやって金を無事持ち出すかの問題ですが、
そこは猿の手配で岩田組も頭の上がらない大親分が登場しその場を収めます。

以上があらすじですが、まだ疑問や知りたい点があると思います。
どうやって岩田組の犯行だと証明したか、どうやって銃撃犯を探したのか、
それは後半の楽しみです。

ルージュ.ノワールの感想

気になるタイトル、ルージュ.ノワールはフランス語で赤と黒の意味です。
その他にも意味があり、ルージュは情熱や魅惑、ノワールは正体不明や不安、
暗黒の意味があるようです。

この作品にピッタリのタイトルでしょう。古希も過ぎた今頃になって気づいたというか、
浮かんできたのですが小説という作品を仕上げる苦労に思いが届くようになりました。

例えが適切か否かはわかりませんが、プロレスのように虚実を取り混ぜながら、
本物以上に本物と思わせるのが小説のだいご味でしょう。

そのために骨組みを考え構築し枝葉を付ける、
単調なばかりでは面白くないので変化も必要でしょう。

ここであらすじでの宿題です。まず岩田組の犯行だと証明したからくりですが、
最初に奪ったトランクをこじ開けた時にガスが噴射されました。

これは防犯用の手段で機器に掛ければお札が光り、出所が判明するという仕掛けです。

銃撃犯の特定には2人が関わりますが、
まず小峰は見た人の影像を正確に記憶するという特殊技能があります。

この地区の男達には大抵愛人がおり店長平山の愛人が側面から協力してくれて、
地区の男達の写真を撮りまくります。

それを小峰が1枚ずつ確認するのですから大変な作業ですが、
遂に銃撃役鈴木、そして岩田組にたどり着きます。

スポンサードリンク




まとめ

この作品にはルージュ.ノワールのタイトルの他に「池袋ウエストゲートパーク外伝」の
副題がついていますので、他にもこの地を舞台にした作品があるようです。

暴力団を扱った作品ともなると、取材にも困難が伴うでしょうし、
表面上警察に抑え込まれている状態なのでどうしても噓臭さが出て来るように思います。

それを感じさせないのが、作家の腕と主人公小峰の成長でしょうか。

このルージュ.ノワールだけでなく他の石田作品にも興味が湧いてきました。
分野を問わず、例えばノンフイクション作品も手掛けて欲しいというのが正直な感想です。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA