『ダークゾーン』貴志祐介の小説を考察。ネタバレ前提で話します

本編の内容を知っている方を前提に書きます。
考察を進めるにあたり、どうしても避けて通れない部分があるからです。

貴志 祐介の『ダークゾーン』を深く理解するためには、
主人公の塚田裕史を知ることが前提となります。

塚田の精神を分析する作業になるかもしれないですが、
内容が内容なだけにご了承ください。

ここからは、作中最大のネタバレを明かしてから、
考察をしていきます。

ぜひ、貴志 祐介の『ダークゾーン』について、
話を聞いていってくださいね。

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●貴志 祐介『ダークゾーン』、考察の前提になるネタバレ

貴志 祐介の小説『ダークゾーン』は、
死を賭したゲームを題材とした小説です。

内容は、軍艦島を舞台とした、
すごくリアルな将棋風のボードゲームです。

主人公塚田裕史が王将で、彼と面識のある人間が駒となって
全8戦のデスマッチを戦い抜きます。

4つ目になった塚田をはじめ、他の知り合いは例外なく
異形の怪物になり果てています。

駒の多くが人間だったころの記憶を保っており、
塚田との会話もできます。

まあ、全部塚田の夢の中の話です。

プロ棋士への夢もたたれ、彼女の井口理沙が死に、
かつてライバルだった棋士の奥本を殺害した塚田が見た一夜の悪夢でした。

作品終盤で、キャラクターの造形は、塚田の記憶に基づいたものだと、
明らかになります。

夢の中の出来事や、キャラクターの言動も塚田の潜在意識に
影響されているとみて間違いないでしょう。

夢は、考えてもいないバカなことも起きますが、
その可能性は無いものと仮定します。

では、貴志 祐介の小説『ダークゾーン』の考察を始めます。

●貴志 祐介『ダークゾーン』、駒ごとに化け物度が違う理由

貴志 祐介の『ダークゾーン』では、
登場人物が気持ち悪い化け物に変貌しています。

駒次第で外見が大きく変わったり、人間の姿を保っていたりしています。

なぜ、登場人物により姿形に違いがあるのかを考察します。

登場人物がどの駒に割り当てられたかを見ると、
面白いことが分かります。

火蜥蜴(サラマンドラ)には、主人公の塚田裕史に小言を言った奨励会の斎藤が
変身しました。

アリクイを思わせる顔つきで、腹部は膨張し、濡れ光っています。
およそ人間とは思えません。

皮翼猿(レムール)には、塚田の友人の河野が変化しました。

真っ黒い大きな眼球やイタチのようにとがった口などを持ちますが、
「人間だった時の面影を残している」そうです。

死の手(リーサル・タッチ)は、主人公の彼女井口理沙がなりました。
左手以外は人間のままです。

近しい人ほど、人間に近くなっています。
理由は2つ考えられます。

1つ目は、近しい人ほど外見を覚えているから。
2つ目は、塚田の好感度が高いほど人間に近づいている。

どっちもだと思います。

特に注目したいのが、2つ目の理由です。

例えば、火蜥蜴(サラマンドラ)。
人間から遠いのは外見を忘れかけているとして、
気持ち悪くなる理由が分かりません。

塚田は、過去の嫌なことを引きずり、あげく妄想を膨らませるタイプです。
長々と説教をしてきた斎藤を化け物に変えるのも無理はないと思います。

もっとも、「貴志 祐介の小説に異形はつきもの」と言われれば否定はできません。

●貴志 祐介『ダークゾーン』考察、理沙の右腕が気持ち悪い理由

塚田裕史の彼女、井口理沙は「ダークゾーン」では、
死の手という一撃必殺の駒になっています。

井口の手を考察していきます。

井口は右手の肘から先が「ぬめぬめと黒光り」しています。

言うまでもなく、夜の軍艦島で、石段から落ちて死亡した理沙の右手が
血でタールのように黒く染まっていたことに由来します。

しかし、死の手となった井口の右手は、色や光沢以外にも変化しています。

節足動物の足のように無数のトゲが生えており、
肘から先だけで1メートル以上あるそうです。

実に貴志 祐介らしい描写ですが、最愛の彼女(だった)井口の右手を
ここまで気持ち悪くする理由は何でしょうか?

ほぼ妄想の域を出ませんが、塚田は自分とは違い、
囲碁でプロになった井口を憎く思っていた部分があったのだと思います。

作中でも将棋のプロになれない塚田のやっかみから、
喧嘩になるシーンがあります。

囲碁を指す手が嫉妬の象徴になっていたのだと思います。

●貴志 祐介『ダークゾーン』考察、「戦え、戦い続けろ」の意味

塚田裕史は、心が折れそうになるたびに
「戦え、戦い続けろ」と唱えています。
このセリフの意味を考察していきます。

「勝て、勝ち続けろ」でも「負けるな、生き残れ」でもないところが面白いです。

つまり、勝敗が大事では無いのだと思います。

作中で塚田は「負け犬になったら終わり」や
「反省している暇はない。戦え、戦い続けろ」と発言しています。

ここから、「戦え、戦い続けろ」は、
戦うこと自体に意味を見出しているだけです。

言い換えれば、負けを認めないで、
あがき続けることに価値を見出しているだけです。

こう考えると、ラストに植物状態になった塚田が、
「ダークゾーン」で戦い続けることにも納得がいきます。

塚田は、内なる声から次のように命じられます。

勝利を目指してはならない。敗北してもならない。
戦いはできるかぎり膠着させよ。戦え。永遠に戦い続けろ

かつてのライバルだった奥本の殺害が警察にばれた後だったので、
起きれば逮捕の状態です。

永遠に起きないのはある種合理的です。

しかし、面白いのは「戦え、戦い続けろ」と「できるかぎり膠着」が
塚田の中で違和感なく融合していることです。

塚田は、あがくこと自体が目的なので、
「ダークゾーン」で終わりのない戦いをすることは、本望だったと思います。

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●まとめ

以上、貴志 祐介『ダークゾーン』の考察記事でした。

今回考えた内容以外にも、キャラデザインの元ネタや、
駒の命名規則などいくらでも考えられる部分はあると思います。

楽しんでもらえたなら幸いです。

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