小説『nのために』をネタバレなしであらすじ解説!愛が起こした切ない悲劇
湊かなえによるミステリー小説『nのために』。
2010年に東京創元社から単行本が、
2014年には双葉社から文庫本が出版されました。
また、2014年には主演・榮倉奈々でテレビドラマ化され話題にもなりました。
イヤミスの女王と名高い、湊かなえ。イヤミスとは「読んだあと、イヤな気持ちになるミステリー」のこと。
ただ『nのために』は単なるイヤミスではありません。
大切な「n」を思うがために起こった、切ない悲劇、純愛ミステリーなのです。
主要な登場人物のイニシャルは、全員「n」。「n」のために何をしたのか。
どんな思いがあったのか。読者しか知り得ません。あらすじや魅力をネタバレなしでご紹介していきましょう。
Contents
⚫『nのために』のあらすじ
超高層マンションの一室で、野口夫妻が変死体で発見されました。
現場に居合わせたのは、20代の男女4人。
杉下希美、成瀬慎司、西崎真人、安藤望。全員イニシャルが「n」。
それぞれの証言が叙情的にモノローグ形式で語られていきます。
明らかになっていく真実。「n」を思ってしたこと、発した言葉、やさしさ、勘違いが切ない悲劇を生むことに……。
⚫『nのために』の主な登場人物
*杉下希美(すぎしたのぞみ)
二十二歳。K大学文学部英文科の四年生。趣味は将棋。
「野バラ荘」の一〇二号室に住んでいる。ビルの清掃業のアルバイトをしながら、生活費や学費を工面している。優しいが冷静な一面も。
*成瀬慎司(なるせしんじ)
二十二歳。T大学経済学部国際経済学科の四年生。
フレンチレストラン『シャルティエ・広田』でアルバイトをしている。杉下とは高校の同級生。同窓会をきっかけに杉田と再会する。
*西崎真人(にしざきまさと)
二十四歳。M大学法学部法律学科四年生。
二年留年。「野バラ荘」一〇一号室に住んでいる。自称、小説家。美しい顔をしているが変わり者。
*安藤望(あんどうのぞみ)
二十三歳。M商事営業部に勤務。
学生時代に「野バラ荘」に住んでいた。殺害された夫、野口貴弘の部下。
⚫『nのために』のキーワード
『nのために』では重要なキーワードが出てきます。
いくつかのキーワードからミステリーを読み解いていきましょう。
*キーワード「罪の共有」
杉下にとって愛とは「罪の共有」だと言います。
共犯とは違う、共有。相手の罪を半分引き受けることだとも言います。
杉下は「n」との罪を共有します。杉下だけではありません。別の「n」もまた「n」の罪を共有します。
*キーワード「勘違い」
『nのために』では、さまざまな勘違いが出てきます。
勘違いが勘違いを呼び、この悲劇を生んでしまった。
それが勘違いだと分かるのは、巧みなモノローグ形式をとっているからです。
読んだ人にしか分からない勘違いを、ぜひ確かめてみてください。
*キーワード「トラウマ」
「n」たちは、それぞれトラウマを抱えています。
自称、小説家の西崎の幼少期のトラウマが、『灼熱バード』という小説を生み出します。
作中では評判が悪いのですが、私はとても大好きな小説です。
文庫本の装画も『灼熱バード』をイメージしたものではないでしょうか。
⚫愛と狂気のはざまで
誰かを愛すると、人は大なり小なり狂ってしまいます。
その人にただ会いたくて、フラフラ歩いてしまったり、その人がいない世界には何の意味もなかったり。
自分を犠牲にすることもあれば、嘘だってつける。殺人者にだってなれてしまう。
『nのために』が愛と狂気は表裏一体であることを教えてくれます。
⚫私が好きな「n」
『nのために』の登場人物は、みんな魅力的です。そのうち、私が一番好きな「n」は西崎真人。
美しい顔なのに、変人。痛々しいトラウマと、大いなる勘違い、
そして嘘。私は西崎のことが、ちょっと分かる気がします。
誰かを好きになるって、愛するって、そういうことですよね。
⚫まとめ
随所に散りばめられている、巧妙なミステリー。モノローグ形式で交差する、
現在と過去。読めば読むほど引き込まれていく、イヤミスの女王、湊かなえが生んだ純愛ミステリー。
読んだあと、イヤな気持ちになる?いいえ、きっと切なくなるでしょう。
ふと、あなたの心の中にいる、誰かを思いだすかもしれませんよ。「n」って、人間の「n」だったりして。
ぜひ、気になった方は、小説『nのために』を読んでみてくださいね。